核融合 (220827)

関西在住の折は、レーザー核融合センター(現レーザー科学研究所)の機関紙が回ってくることがあり、慣性核融合の進展に興味を持っていた。それ以前にも日経サイエンスの特集号などに、ガスタンクのような球形構造に円筒形の首と台座を取り付けた巨大な核融合装置の解剖図が示してあり、球体斜め上部にある投射装置から射出された燃料ペレットが、球の中心点において球面に等間隔に配置された8ヶ所の開口部から発射された強出力レーザーによって爆縮され、核融合が生じ、その際の熱が、球体内面を覆い、上から下へと流れる液体リチウムを加熱し、加熱された液体リチウムが、外部で熱交換した後、再び上部から装置に導入されるという大胆な仕組みを見て、いつかはこのような装置が実現するのかとわくわくすると同時に、この方式で発電が実現するためには、これまでにないブレイクスルーを必要とするとも感じていた。

今回は、当時、自分がレーザー核融合について感じていた事、レーザー核融合を実現するために考えていた事を大胆に述べてみたい。少々、原理的な事から説明を始めたいと思う。

先の日経サイエンスのレーザー核融合は、以下のD-T反応を想定している。

                           D + T → 4He + n (14MeV)

(D(deuterium)は二重水素、T(tritium)は三重水素、Heはヘリウム、nは中性子)

そして炉内面を覆うリチウムは、

                                  6Li + n→ T + 4He + 4.8 MeV

                                  7Li + n→ T + 4He + n - 2.5 MeV (Liはリチウム)

といった反応により、高速中性子を受け止めて、照射脆化による炉壁や構成材の劣化を抑制し、プラズマ内で生じたエネルギーを受け取り、D-T反応の燃料である三重水素の生産を行うという役目を果たすことになる。リチウムはブランケット構造の中を流れているのではなく、炉の内面にホールドされており、高速中性子をダイレクトに受け取る所がミソであろうか。

  さて、D-T反応の原料となる燃料ペレットは、二重水素三重水素からなる数ミリの中空球形体であり、個々のペレットを用いた融合反応の実証実験では、1つづつ実験者が中心点に置いて爆縮するので特に問題はない。しかし、実際の発電においては連続的に爆縮を行うので、ペレット位置の高度な制御が必要である。そのような制御技術以前の問題も存在する。燃料ペレットは反応直前まで極低温の状態にあり、高温のプラズマが発生している爆縮予定位置まで、無傷で到達する必要があるが、これは不可能と言わないまでも、極めて困難状況である。テレポーテーションのような技術によって、ペレットの移送と爆縮を同期させるのが、想定しうる最もよい方法かもしれないが、これは未到の技術である。燃料ペレットの連続爆縮の問題は、レーザー核融合による発電の困難さを示しているように思われる。では、レーザー核融合による発電を実現するためにはどうすればよいのか、当時の状況を踏まえ、自分なりの意見を少し述べてみたい。

  まず低温に保持された燃料ペレットを、中心点で連続的に爆縮するのは、ほぼ不可能なので、核融合燃料としての燃料ペレットの使用は放棄する。燃料は、トカマク型同様、二重水素三重水素混合気体(二重水素のみでD-D反応の可能性もあり)を用いるが、高濃度で加圧(場合によっては加温も)し、原子の平均自由工程を最小化した状態で用いる。

  燃料ペレットを用いないことから、爆縮の球対称性は放棄し、線対称性とする。すなわち、直線軸上、或いはわずかにくの字型に角度のついた直線軸上を逆方向から進行するレーザー光の接着点(くの字型の場合は折点)が爆縮部位となる。昨今の超高強度・超短パルスレーザーの進歩は著しく、1021W/cm2以上の光強度を持つレーザー光が可能であり、爆縮にはそのようなレーザーが用いられる。線対称性に移行した爆縮は、広くはないが点ではない、一定面積の面(面爆と呼ぶことにする)にて行う。超高強度レーザーによる面爆を高頻度で繰り返すことにより、D-T反応による擬ディスク状、スティック状のプラズマを発生させ、維持するというものである。

  以下に、核融合炉中心部の大まかな概念図が示してある(図1. A type,B type)。これらは中小規模の炉を想定しており、上下、側面どちらから見たものとしても成立しうる。線対称の爆縮におけるレーザーの進入角が、BよりもAの方が浅い(光軸:青線)。炉内には、二重水素(D)と三重水素(T)が高濃度で加圧封入されている。図の左右から侵入した超高強度レーザーは、中心(太十字)で衝突し、そこに存在したDとTの一部に核融合が引き起こされる。レーザーが高速で連射されることにより、プラズマ(橙色)が連続的に生じ、レーザーのベクトル和の方向にわずかながら運動量を得て、プラズマがたなびいて行く。炉の外側に配置された電磁石の磁場により、炉の特定の位置に移動、維持されたプラズマから、ブランケット(黄色)内の物質が熱や高速中性子を受取り、発電に利用される というものである。

 

                     

 

                     

 

                     

 

                                                                   

(図1. 本記事に述べるレーザー核融合炉の概念図. 思考順に、A type、B type1、type2、type3とある。)

A typeとB type1は、初期の考えで、燃料封入空間が大きく取ってある。そのため、レーザー進路にある燃料分子が衝突前のレーザーに干渉し、強度を弱める可能性がある。B type2は、それを軽減するため、燃料封入空間をコンパクトとし、さらに全体をブランケットで覆っている。B type3は、B type2の炉の形状をさらに滑らかにしたもので、断面の形状が、上部が棒状の瓢箪に似ているので、gourd typeとでも呼ぶことにする。B type3はAのようにレーザーがより浅い角度で侵入する場合においても成り立ちうる。以下はB type3を前提としている。

ブランケット内部には、熱交換、遮蔽用の加圧冷却水が循環している(出入口の記載は省略)、或いは三重水素の生産も兼ねてリチウムが存在する、または、それら要素を同時に持つ、より複雑な細管構造を含むことも考えられる。

炉は、2本のレーザーの光軸面において、図1のB type3に示されるように瓢箪形であり、ロータリーエンジンのローターハウジングの様に同じ形状で光軸面と平行に、上下に一定の厚みを持つことが考えられる。そしてその厚みの両端は、サイドハウジング様構造で閉鎖され、炉空間を形成している。同構造は、ローターハウジング様構造の両端を水平に閉鎖し、B type3図の赤破線の断面において、プラズマを保持する領域が方形となる例(図2A)や、膨らみのある構造により曲面状に閉鎖され、小判状、トラック状となるケース(図2B)が考えられる。

                                                          

(図2. 図1 B type3において、主にプラズマを維持する部位の断面構造(赤破線)を示している。炉の規模にもよるが、A及びBでは、炉壁-ブランケットの交換、補修を、パーツごとに行う可能性がもたらされる。一方、C及びDでは、ブランケット内の流路がシンプルとなる。)

これらハウジング様構造はすべて、上に述べたブランケット機能を保持することを前提とし、一部、一体構造よりなる事も想定される(図2C,D)。その場合、図2Dの炉空間は、円として設計されてもよい。これらブランケットや炉の外側には、プラズマ制御用の電磁石が配置されていることになる。

 

さて、また、何か進展があれば報告する予定である。このような機構が、レーザー核融合による発電の達成に寄与する所があればと思うばかりである。

 

( 線対称性面爆縮レーザー核融合

レーザー補助性ラインシンメトリック-プレインイムプロージョン誘導核融合 )